対談
矢野:全国を飛び回る過密なスケジュールの中、この度はお招きくださいまして誠にありがとうございます。
松香:どういたしまして。本日はよろしくお願いします。
矢野:私は発音矯正コースの担当コーチなので、松香先生のフォニックス指導をぜひ深く知りたいと思いお話を伺いに来たのですが、
フォニックスに加えて知ることとなった「TAGAKI」というライティング指導教材には、
現在のPRESENCEのアウトプット面でのカリキュラムを補完し、より高次元のコーチングを提供することにつながる可能性を感じました。
松香:ありがとうございます。
矢野:実際にTAGAKI を用いて指導する中で、mpiの受講生さまにはどのような変化が生まれましたか?
松香:TAGAKIは「多書き」ということで、「たくさん書く」というイメージが先行しますが、
単語だけ書く、文法書に解答するために書くのではなく「話す(通じる)ためのTAGAKI」が実像です。
伝えたいことを正しく書き写す→それを見ないで書くという準備活動を経て、
見ないで言う→他者とコミュニケーションをするところに爆発的な喜びがあります。
話す→書くではなく、書く→話すステップを踏むので「すでに自分の考えが整理されている」「間違いのない文を覚えている」
という安心感があり、自信をもって伝えられたという達成感が学習者に見受けられます。
矢野:PRESENCEでも「単語単位」「文単位」での暗記はカリキュラムに入っているのですが、
そこから一気に「長尺のアウトプット」に移るため、PRESENCEの受講生さまの中には心理的障壁があると感じている方も少なくないです。
もちろんそれを乗り越えるようにコーチングしていくことが大事なのですが、そのためのブリッジとなるTAGAKIの効果は大きいと思います。
特に、私がコース担当をしているTOEFLのような「4技能型」の試験では、とにかく時間内にアウトプット量を確保することが最初の壁なので。
松香:TOEFLといった各種試験対策を第一とした教材ではありませんが、大きな効果があることは間違いありません。
mpiの受講生さまのアンケートでは「考える癖がつき、英検のライティング問題に取り掛かりやすくなった」
「TAGAKIがTEAP(大学教育レベルにふさわしい英語力を測る試験)のスピーキングテストのRoll Playに親和性があり、自信をもって取り組めた」
といった声をいただいています。
矢野:PRESENCEでも「基礎力⇒得点力」の流れは常に意識してカリキュラムを組んでいます。
試験対策の前にまず基礎。直接は試験に結びついていないように見えても、あとで効いてくる大事な課題というものは確実にあるので、
それがmpiの受講生さまの成功につながっているのだと思います。
また、個人的には「試験のための英語学習」で終わってしまうのは空しいと感じているので、
コースを通して「人生の資産となる英語学習」を提供しようと常々考えており、そうした思想にも合致しています。
松香:それには私も完全に同意です。
TAGAKIは一般的なGrammar Based Syllabus(学ぶべき文法に沿って作られた教材)ではなく、
Topic Based Syllabus(話すべき内容に沿って作られた教材)です。
TAGAKIを学習後には、世界の普遍的な150のトピックで、
いつでも、どこでも、誰とでも、ユーモアを交えながら 意見交換ができることを理想としています。
その理想をめざす過程において、学習が進む毎に、学習者に内在されるトピック数が増えていき、
多種多様なやりとり、会話が成立し、それを楽しむことが可能になります。
矢野:自分が話せる「ネタ」を持っておくということは、会話においても試験においても確かに大事だと思います。
松香:TAGAKIでは、初期段階から構成を意識して書く・話す(伝える)ことを訓練し、
話し始める時の「Catchy Sentences(つかみ)」の大切さ、
それをサポートする「Facts(事実)」に加えて独創的な意見を述べ、
そして最後は「Punch Line(話のオチ)」で締める、という構成を意識することにより、
相手に伝わりやすくなります。
矢野:日本人学習者は学校教育で「とにかく書きましょう」と教わっていますから、特に苦手な部分かと思います。
松香:はい。特にPunch Line については大きな成果があります。
ユーモアのある人間として、常に軽い冗談を用意するという心の余裕が相手の心をとらえ、人間関係を円滑にします。
Punch Line は常に練習すると上達します。言い換えるといつも練習していないととっさの時に使えるようにはなりません。
曖昧を許容しない欧米の世界でこれだけ会話の中に冗談がやり取りされるのは、
人とのコミュニケーションを潤滑にするために必要なものと理解されているからだと考えます。
矢野:確かに、せっかくTOEFLのような厳しい試験を突破して留学を実現しても、
その留学先で良好な人間関係を築けなければ留学の意義も半減してしまいます。PRESENCEは単なる試験突破だけではなく
「人生を輝かせる」ところまでが理念なので、留学後の過ごし方にも資するようなコーチングを追求しています。
そういう意味でもTAGAKIは有効だと感じます。
松香:実際、TAGAKI 学習後に海外に留学したmpiの学生より、
TAGAKIの一番の成果は「自分から会話を始められるという点」との報告がありました。
自在に扱える150ものトピックがあるので、自分からトピックを提供すると、
あとは周囲の人がその話題で盛んに話(議論)を始めてくれるそうです。
これは留学先でなかなか現地の友人を作ることが難しい日本人にとって大きな利点になると思います。
矢野:そうだと思います。さて、話は変わりますが、mpi と言えばスクール名にある通り「フォニックス」を用いた発音指導が有名です。
TAGAKIの中にも発音指導のエッセンスは含まれていますか?
松香:日本人にはあまりフォニックスを学習された方がいないので、大人の方でも必ず得るものがあるでしょう。
また、フォニックス指導においては、なるべく早い時期からフレーズ、文、ストーリーなどを読む事を導入し、
そこで必要になる、強勢(リズム、イントネーション)や、リエゾン(語の連結による音声変化)などを
自然に体得できるよう指導することが重要です。
これにより、相手に通じやすい英語、大切なポイントを伝えやすい英語になります。
また、mpi では発表教育に力をいれているため、複数の人数に対して話しをする時の、表情をともなった強勢、
伝えたい内容にそったジェスチャーを伴った単語の発音が実践されています。
矢野:PRESENCEの発音矯正コースでは、発音と文字が「誤って結びついている(文字を見て発音できるがその発音が間違っている)」
大人の方々の発音を「矯正」することが主目的なので、発音記号を指導していきます。
ただ、フォニックスにより「発音記号と文字」をリンクさせることにより更に学習しやすくなると感じているので、
そうした視点からのカリキュラムの改良も進めていこうと思います。
松香:日本人にはあまりフォニックスを学習された方がいないので、大人の方でも必ず得るものがあるでしょう。
また、フォニックス指導においては、なるべく早い時期からフレーズ、文、ストーリーなどを読む事を導入し、
そこで必要になる、強勢(リズム、イントネーション)や、リエゾン(語の連結による音声変化)などを
自然に体得できるよう指導することが重要です。
これにより、相手に通じやすい英語、大切なポイントを伝えやすい英語になります。
また、mpi では発表教育に力をいれているため、複数の人数に対して話しをする時の、表情をともなった強勢、
伝えたい内容にそったジェスチャーを伴った単語の発音が実践されています。
矢野:PRESENCEでも、自分で選んだ、または自分で作成したまとまりのある英文の「発表」は必ず取り入れています。
個々の発音を入念に取り組んだ上で、イントネーションやリエゾンを取り込んだ「伝わる英語」に昇華することは非常に重要かと思います。
松香:TAGAKIに関連して話をすると、このようにして身につけたスキルが、TAGAKI の学習中に大いに役立ちます。
身につけた表現方法をTAGAKI の「伝える」で駆使していきます。
まずはサンプル音声を聞きますが、見ないで言う練習を繰り返すので、
自然に発話量が増え、段階的に滑らかに話せるようになります。
また個々の発音・イントネーション他はすべてに音声教材がついているのでそこで確認できるようになっています。
矢野:ライティングだけでなく、スピーキングや発音など、あらゆる面で効果を発揮しそうです。
詳細なご説明、ありがとうございました。これからもPRESENCEはmpiと連携し、更に高品質のコーチングを受講生さまに届けるべく努めて参りたいと思います。
本日は貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございました。
松香:こちらこそ、mpiとPRESENCEがおこなっていることが相乗効果を生むような未来を描いていければと思います。
今後ともよろしくお願いいたします。
プロフィール詳細
(株) mpi 松香フォニックス 名誉会長 松香 洋子 先生
日本にはじめて本格的にフォニックス学習を導入、1979年に松香フォニックス研究所を設立。 読み書き指導中心の日本の英語教育に疑問を持ち、40年にわたり「英語でコミュニケーションができ、国際的なマナーを身につけた子ども」を育てる児童英語教育の普及に貢献してきた。述べ2000件を超える全国の小学校・自治体・英語教育機関で講演・顧問・研修活動を行う。著書多数。2005年宮沢賢治学会イーハトーブ賞奨励賞受賞。2008年英国国際研究所第一回国際言語教育賞「ことばと教育」児童英語部門伊藤克敏賞受賞 。
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PRESENCEのカリキュラムに、「フォニックス(発音と文字の関係性を学ぶ音声学習法)」と「TAGAKI(論理的思考を身につけるライティング指導教材)」という視点から更なる厚みを加えてくださる松香先生が、その二つの指導法に出会うきっかけのお話です。
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生い立ち
松香が生まれたのは満州。
第二次世界大戦の真っただ中だった。
昆虫好きな父親と、当時の女性では珍しい大卒、医者の家系で育った才女の母親の次女として生まれた。
戦後は、母の実家の茨城県竜ケ崎市でしばらく過ごした。
小学生にあがる頃、父親が玉川学園の農学部教授になったため、東京に移った。
松香は父と同じ玉川学園の小学部に入学した。
身体が弱かったので、しょっちゅう学校を休む子だったらしい。
それにも関わらず、いつも学級委員だった。
生意気な小学生だったと松香自身、語っている。
小学校6年生の時、国語の先生から、将来松香を嫁に欲しいという申し入れがあった。
父親は大いに喜んだが、松香は断ることしか考えなかった。
中学進学の面接で将来の夢はと聞かれると、『総理大臣になりたい』と答えた。
面接官全員大笑いだったが、松香は真面目に答えたつもりだった。
そうでも言わない限り、嫁がされると本気で思っていた。
英語教育の道へ
中学になって、松香の人生を決定付ける出会いがあった。
それは英語教師だったA先生。
華族出身の絵に描いたようなお嬢様だった。
中学生ながら、『この人の英語は本物だ!』と思った。
A先生みたいになりたい。
松香は1日30個単語を暗記することを自分に課した。
もう1つの動機もあった。
この世界から抜け出したい。
父親の勤める玉川学園の学生であることが窮屈だった。
英語が話せると、ここから飛び出して行けるはず。
そう思って、英語の勉強を必死に続けた。
進学したのは玉川学園英文科。
卒業後は同校の英語教師になることを期待された。
松香はそれが嫌で内緒で就職活動をした。
大手総合商社Mの内定をもらった。
やっとこの世界から逃げられる。
そう思ったが、周りの反対にあった。
結局、1年だけ恩返しのつもりで玉川学園の英語教師になった。
在職中、旺文社とブリティッシュ・カウンシル主催の『高校教員のための英作文コンテスト』に応募した。
すると、このコンテストで最優秀賞となり、ロンドンへ短期留学できることになった。
短い期間だったが、初めて叶った脱出だった。
ロンドンでの毎日は刺激的だった。
何よりイギリスの音を楽しむ英語教育現場を見て、日本のそれとの差に愕然とした。
日本の英語教育を何とかしたいと思う最初のきっかけとなった。
結局、松香は玉川学園の英語教師を4年勤めた。
その後、6年間の専業主婦期間を経て、また玉川学園の英語教師として社会復帰を果たした。
但し、普通の社会復帰ではなかった。
専業主婦期間中、子どもを連れてアメリカのカリフォルニア州立大学サンフランシスコ校で留学を2年経験していた。
その時、子ども向けの英語教育法であるフォニックスに出会った。
子どもたちの英語力がみるみる上がった。
『これはすごい!いつか日本に持ち帰りたい!』と、松香は思った。
玉川学園に戻って、英語ネイティブの教師とともに高校英語を担当した。
3年目のある日、生徒を代表して5人くらいが職員室にやって来た。
『私たちは受験するので、英語は松香先生の授業だけにして欲しい。受験対策を強化して欲しい。』と、言ってきたのだ。
つまり、英語ネイティブの『聞く・話す』という授業はいらないということだった。
これに英語ネイティブの講師は激怒した。
英語でのコミュニケーションのために、本来必要なのは『読み・書き』よりも、『聞く・話す』ではないか、と。
しかし、まずは目先の受験を突破しない生徒たちの要望ももっともだった。
この本末転倒した事態に、松香は『日本の学校教育とは決別しよう。』
そう思った。
起業
アメリカ留学で子どもたちが楽しそうに取り組んでいたフォニックス。
いつか日本に持ち帰りたいと思っていた
あれを日本に紹介しよう。
海外の教材を取り寄せ、子ども向けにフォニックスでの英語教育をスタートさせた。
1979年のことだった。
開始直後から、松香は取り寄せた教材に違和感を覚えた。
どうも使いづらい。
日本人の子どもたちに合った教材は無いものか。
探し回ったが、どれもしっくりくるものがなかった。
『こんな教材があったらいいな!』
松香自身が英語講師としてそう思える教材を作ろうと決心した。
そして、これが英語教材制作という松香のライフワークの始まりだった。
今までは英語講師だったので、集めるのは生徒。
しかし、教材制作となると、今度は使ってくれる英語講師を探さないといけなくなった。
松香は全国行脚に出た。
興味を持ってくれる団体、民間企業、英語スクールなど。
教材を紹介するために、ありとあらゆる場所へ赴いた。
1つ、また1つと制作した教材を利用してくれる英語教室が増えていった。
その数、いまや350教室に及ぶ。(2018年9月時点)
松香の仕事における絶対変えたくない信念。
それは『仕事を楽しむ』こと。
創業以来、英語教材制作を存分に楽しんできた。
フォニックスはすぐ結果が出るから、子どもも楽しいし、先生も楽しい。
子どもは未来からの留学生。
その松香の考えに賛同する全国の英語講師は、未来ある子どもたちから学ぶ心も持っている。
『英語のできる15歳』を育てる。
この経営理念を果たすために、松香は数多くの教材を世に送り出してきた。
子どもたちの笑顔を思い浮かべながら、教材制作に取り組んでいる時が一番幸せだそうだ。
新教材:TAGAKI
そして、新たに出来上がったのが、『TAGAKI(多書き)』だ。
大学入試が従来の『読み・書き』中心だったのが、いよいよ4技能(聞く・話すも追加される)試験に変わる。
これからはListeningとSpeakingの時代になる、今あえてWritingの教材を出すには理由がある。
約40年前、フォニックスからスタートしたのは、当時の英語教育に『音声から文字へ』という教育がなかったからだ。
子どもこそ音から入った方が、吸収が格段に早くなることに気付いていた。
今でも幼少期に一番大切なのは『音から』という考え方は変わっていない。
では、なぜここに来て『書く』教材を作ったのか。
『TAGAKI(多書き)』は、自分の意見を論理的に<英語>で話せるように作られた。
最初は何が好きで、何が嫌いかといった簡単な表現から始まる。
最終段階では、『私はこう思います。なぜなら・・・。なぜなら・・・。さらに・・・だから。』
実は、英語力において、この論理的に話すという点は日本人が最も苦手なのだ。
と言うよりも、全く出来ないと言っても過言ではない。
例えば、『●●政権についてどう思いますか?』という質問をしたとする。
『●●さんのやってる事は賛成できない部分もあるけど、頑張ってるんじゃない。』という答えをする日本人は多いだろう。
日本では、『良し悪しどちらも知っているけど、どちらかに偏った意見を持たない』という考え方が大人だと評される。
逆に偏っていると、極左・極右などと揶揄される。
しかし、この日本人的な考え方は欧米人からすると、何も意見を持たないことを意味するのだ。
『Yes or No.(支持するか、しないか)』
どちらを支持するのかはっきり意見を持つ。
その上で、『because・・・, because・・・』と論理を組み立てる。
どちらかの意見を持たなければ、論理的な議論も出来ない。
国際化が益々進む世界で、日本人の論理的思考(Logical Thinking)を育てるのは不可欠。
『書く』ことから考え、論理的に意見を構築する。
そのために松香が3年の月日をかけて仕上げたのが、『TAGAKI(多書き)』である。
最後まで仕上げると、論理的思考が身に付く。しかも、英語でだ。